「中毒性からどう抜けだすか?(ブラッドリー・スミス氏分科会講演)」 WGI国際カンファレンス2018

中毒性からどう抜けだすか?(ブラッドリー・スミス氏分科会講演)


皆さんは自分や周りの人で、【中毒症】ということについて意識したことがありますか?

一般的に中毒と聞いてイメージするのはアルコール中毒、薬物中毒、などかもしれませんが、実は身近にもタバコやお酒が辞められない、誰か特定の人に依存してしまう、ショッピング依存症、ギャンブル依存症、ネット依存症など、当てはまる人もいるのではないでしょうか。
今回はWGIで行われたブラッドリー・スミス氏の基調講演より、なぜ人は中毒になるのか、中毒に対しどのように対応していくと良いのか、学んでいきたいと思います。

ブラッドリー・スミス氏(Bradley Smith)

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- プロフイール
ロサンゼルスのLoyola Marymount University(LMU)の専門の臨床カウンセラーであり、薬物使用障害専門医。中毒性やその他の有害な関係の予防、早期介入、害軽減に取り組む政策の策定とプログラムを提供しています。
出版も数多く手がける研究者でもあるため、北米、ヨーロッパ、アジアの会議で定期的に発表しています。また、社会正義を訴えるクラシックロックミュージカルグループ「レオクラウス」(The Clear Lion)のバンドリーダーでもあります。

– 実績
スミス氏がコーディネーターとして関わった「女性刑務所の受刑者に選択理論によるセルフマネジメントを教える」というプロジェクトにおいて、スミス氏が手がけた女性刑務所は2007年の卒業受刑者12名の再犯率が0%、2012年までの卒業受刑者114名全員に対する再犯率も3.5%まで引き下げることに成功しています。(カリフォルニア州の平均再犯率は67%)

中毒性と選択理論

中毒性とは?

アルコール中毒、薬物中毒、タバコが辞められない、誰か特定の人への依存、ショッピング依存症、ギャンブル依存症、カフェイン依存症、ネット依存症はなぜ起こるのでしょうか。
アルコール、たばこ、麻薬、カフェインなどに含まれる物質を摂取すると、またギャンブルなどのリスクの高い勝負に勝った時などはいずれも脳の中枢神経の神経細胞間に直接作用し、ドーパミン神経系統からなる報酬系を直接活性化することによって一時的に精神状態をリラックスさせ、不安を取り除き快感をもたらす効果があります。
ただ時間が経つと耐性が獲得され元に戻ってしまいます。不安や怒りなど負の感情が消滅することはなく、離脱症状でさらに不快になり、より多量の刺激物質が欲しくなり依存症に繋がるのです。

人はなぜ中毒性に陥るのか?

人が中毒性に陥る5つの理由があるとスミス氏は言います。
・心の平安を得るため
・何かと繋がっている感覚が得られるため
・いい車や大きなテレビが欲しいなどのイメージを求めるため
・自分否定の感情を解消するため
・現実逃避をしたいため、自分に対して罰を与えたいため

いずれも選択理論心理学における「欲求充足」と結びついています。
それが自分の人生にとって有益であるかどうか、社会正義に反するかどうかは別にして、その人の満たされない基本的欲求を満たしてくれると感じているので人は容易にやめることができません。

ただ中毒性は遺伝子から来るものではなく、欲求充足の方法として選択されるにあたり、本人の価値観の影響を大きく受けています。

私達は自分の認識、態度、信念の組み合わせにより価値観とアイデンティティ(自己の存在意義)を形成しています。その価値観とアイデンティティをもとに、「伝統、慣習、地理、経済、個人的経験」をふまえ、私達は外部の環境というものを見ています。それにより、自分の見えている世界の中で、自分の立ち位置を形成しているのです。

この立ち位置は個々人の解釈のゆがみを踏まえており、そこに対して効果的な考え方や行動を選択する手助けをすることで、この立ち位置を変え、具体的な行動計画と実行の支援を通して中毒から抜け出す支援をすることができます。

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中毒性を持った人にどんな支援ができるか?

中毒性を持った人の立場を理解することがまず大切です。
中毒性を持った人を理解するための注目すべき12の行為と思考をまとめていますのでご参照ください。

▼1. 中毒に陥って助けたいと思っている人は素晴らしいものをもっているという前提を持つ。

▼2. 彼らがとっている行動は環境文化や価値観に基づき、「これをするべきだ」という当然のしかるべきアクションとして選択している。たとえばアルコール中毒者たちは、アルコールは社会につながるのに必要と感じている。

▼3. 我々の脳は常に変化を求めている通常通りのことに、退屈をしてしまうドーパミンが脳で出ているときに人は興奮するように退屈を変えるために中毒という選択をしている人もいる。

▼4. テクノロジーというものが進歩した現代において、人はSNSなど科学の力を通してつながりを創ろうとする。しかしそれは本当のつながりにならない。むしろ、ソーシャルネットワークは新しい壁である。ネットワークは多様性の広がりをもつと思われそうだがそうではない。自分と似たようなグループを増やしていくだけになる。それによって子供たちは、他の人が彼ら自身をどう見るかどう見られたいかに四苦八苦している。どうみられるかではなく、どういう人生を歩みたいか?が素晴らしい人生の始まりで必須条件である。

▼5. 自分に対する確固たる自己認識。あなたを含めて自分をどんなふうに見ているかがアイデンティティとして形成される場その確立がどうか。

▼6. 自己認識や価値観は、変えられない植えつけられた神経というようにとらえているが、後天的に身に着けることができる。

▼7. 彼らは、基本的欲求に対して意味のある満たし方 効果的な欲求充足を経験したことがない。

▼8. 選択理論で全部説明がされていることではあるが、中毒で苦しんでいる人は全部自分で選んだ結果である。

▼9. 今とっている行動で何を生み出すのかが明確か?やりたい願望と現状がマッチしていないと人はギャプを埋めるために内発的に行動に起こす。

▼10. 彼らは彼らのとらえている現実が真実であるととらえている。メタルファンという言葉を聞いて、「金属製のファン」と「メタルバンドのファン」どっちを頭でイメージをするか? その人の認識が現実を形成している。その現実は必ずしも真実であるとは限らない。

▼11. 常にこの2つの質問を自分に繰り返している
1、私がわたくしのしている方法を続けるために何をすべきか?
2、このズボンを太って見えるかな?(周りからどう見られているのか?)
悩んでいる人は「私はこうである」と認識をしていないので、周りからどう見られるかを気にしている。

▼12. 本人は「愛は悲しみの前奏曲である」と思っている。愛の後には必ず悲しみがあると思っている。中毒に悩まされている人は愛の後に必ず来ると本人が信じる悲しみを恐れている。

人生を変える2つの質問

上記12の情報を踏まえて、中毒で苦しむ人に対する2つの質問を変えていくことが大切です。

1、「私は何をしてもらいたいのか」
→「私は何を差し出すことができるか」
コントロールできない人や周囲から与えられることを求める考え方から、コントロールできる自分自身がこれから何をしていくのかという考え方に転換する。

2、「私の人生はどうなるのだろうか、何の意味があるのだろうか」
→「どこに私の人生の意義、目的を見出すことができるだろうか」
コントロールできない与えられた未来を憂う考え方から、コントロールできる自分自身が人生に意味付けをしていく考え方に転換する。

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最後に

さて、中毒はどのようにして陥るのか、そしてどのように対応していくといいのか?ということについての考えや行動を提示しましたが、いかがでしたでしょうか?
本内容は中毒の方や中毒の方が身近にいる方だけでなく、効果的に自分の欲求充足ができていないと感じる人にとっても役立つ内容かもしれません。ぜひ今日から実践してみましょう。
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用語紹介

比較の場
私たちは、自分が求めているもの(いわゆる上質世界)と自分が現実から知覚したもの(いわゆる知覚された世界)とを天秤にかけるように比較している、と選択理論のなかでは考える。このことを【比較の場】と呼ぶ。比較の中でギャップが生じ、天秤の釣り合いが取れなくなると、そのギャップを埋めるための行動をとるよう、フ...
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